小学生でも5分で分かる鳥インフルエンザの恐怖 (再掲)

新型インフルエンザのパンデミックがにわかに現実味を帯びてきたみたいなので、
http://www.mypress.jp/v2_writers/beep/story/?story_id=1826759
ちょうど一年前に書いた記事を再掲してみる。

  • そもそもウイルスって何?

ウイルスってのは自分を構成するタンパク質と、それをコードする最低限の核酸のみを持った
構造体だ。自分の生存における「必要最低限」のものしか持ってないんだから、
もちろん自己複製能だって持ってない。ウイルスは、宿主となる動物や植物の細胞に寄生して、
その細胞が持つ複製システムを利用して自分を増殖させていくんだ。
生物と無生物の中間のような存在と捉えるのが分かりやすいかな。

  • インフルエンザウイルスの特徴は?

インフルエンザウイルスは二つの大きな特徴を持っているんだ。そしてその二つの特徴は、
感染において非常に有利に働くんだ。
一つ目は「突然変異が起こる確率が非常に高い」ということ。
二つ目は「感染能力が非常に高い」ということ。

  • インフルエンザウイルスの構造はどうなってるの?

インフルエンザウイルスを理解するうえで知っておく必要のあるタンパク質はたったの二つ。
一つ目はHA(ヘマグルチニン)、二つ目はNA(ノイラミニターゼ)だ。
上のニュースに「H5N1型」って単語が出てるけど、それはつまり
HAのNo.5とNAのNo.1を持ったウイルスだってことだ。
今現在、HAは16種類、NAは9種類知られている。よって少なくとも
16×9=144種類の違ったインフルエンザウイルスが存在することになる。
それじゃあHAとNAの詳しい説明に入ろう。

  • HAとは?

さっき上でも書いたように、ウイルスは何かの細胞に寄生しないと
増殖できない。この、寄生するために必要なタンパク質がHAなんだ。
HAは宿主となる細胞膜表面に吸着し、細胞内に侵入する足がかりとなる。
でも、HAだって万能じゃないので細胞全てに吸着できるわけじゃない。
例えばH1型は鳥にもヒトにも吸着、侵入できるけど、
一方でH5型は鳥やブタの細胞にだけ吸着でき、ヒトの細胞には
侵入できないんだ。これが鳥インフルエンザ恐怖のキモとなるんだけど、
説明は後ほど・・。

  • NAとは?

NAは、宿主細胞を利用して増殖したウイルスが、その宿主細胞膜を突き破って
外に出るために必要なタンパク質だ。つまりHAで侵入し、NAで脱出することで
1サイクル
完結するわけだ。

さっき上で書いたようにH5型はヒトには感染しない。
でも、「トリ」「ブタ」「ヒト」の三役者に、「突然変異が起きやすい」という
インフルエンザウイルスの特徴を掛け合わせると、あーら不思議、
ヒトに感染する可能性がバンバン出てくるんですねぇ。


説明を簡単にするために、トリさんは几帳面な型、ブタさんは二面性を持つ型、
ヒトさんには自己中な型になってもらいましょう。
H5型などの「」型ウイルスはトリ、ブタにしか感染できない。
(注:この「」型は一般的なインフルエンザウイルスの分類のA−C型とは別です。)
一方で「」型ウイルスはブタ、ヒトに感染できる。
さて、あるブタが偶然にも同時に「」型ウイルスと「」型ウイルスに
多重感染してしまったとしよう。すると、このブタの体内で
」型ウイルスと「」型ウイルスとが核酸の再分配を起こすこととなってしまう。
そうした突然変異で生まれた新型ウイルスの中にはもちろん、「」型の
性質を持ったままヒトに感染する能力を有したものがいても不思議ではないよね。
つまり、ヒトが体験したことの無い」型ウイルスがブタの体を経て
ヒトに感染する可能性があるんだ。


免疫系は一度経験した異物に対する防御は非常に強いけど、
(おたふくかぜやはしかに一度かかると、生涯二度とかかることはないよね。)
初めて入ってくる敵に対しては滅法弱いんだ。だから新型インフルエンザウイルスに
感染しても、それに対して体はどう反応していいか分からない。
自然治癒力に任せておけばいいって問題じゃないんだね。


さらにマズいことに、インフルエンザウイルスの特徴その2「感染能力が非常に強い」。
みんなHIVウイルスが怖いっていうけど、このウイルスは空気中ではほとんど
感染力を持たない。一方インフルエンザウイルスの主な感染経路は「飛沫感染」と
接触感染」。つまり、Aさん(患者)のくしゃみや鼻水そのもの、だけでなく、
Aさんがくしゃみを手で防ぐ -> その手で机を触る -> Bさんがその机を触る

  • > Bさんが何かの拍子で口を触る だけで、Bさんは感染する可能性があるんだ。

感染者が爆発的に増えても不思議じゃないよね。
世界中でひとつの病が大流行することをパンデミックって呼ぶんだけど、
このトリインフルエンザがいつ「パンデミック」になってもおかしくないのが
今現在の状況なんだ。

  • 対応策はないの?

対応策は主に次の二つ。
一つ目はみんなも聞いたことがあると思うけど「『タミフルリレンザ』の備蓄」
二つ目は「インフルエンザワクチンの備蓄」だ。


タミフルリレンザはどちらとも上で述べた「NA」の阻害薬なんだ。
つまり細胞内でウイルスが増殖しても、そのウイルスは外に脱出できないから
それ以上症状は悪化しないというわけ。
・二つ目はその名の通り、インフルエンザウイルスに対するワクチンを
予め接種することで、新型インフルエンザに対抗しようという試みだね。


世界中で、これらの対応策を取ってるわけだけど、もちろんそれで万全なわけじゃない。
備蓄数が絶対的に足りないということは置いておくとしても、
そもそもこれらの薬が新型インフルエンザに効くかどうかが曖昧なんだ。


まずタミフルについてだけど、上に書いた通りこの薬は直接ウイルスを
殺すわけじゃなく、あくまで増殖を防ぐ、という役割しか持たない。
よってウイルスが十分増殖して、症状が重くなってから服用しても時既に遅し
タミフルじゃぁどうすることもできないんだ。
予防的に罹患前に飲むとタミフル耐性菌が出現する可能性も高くなるし、
飲むタイミングが非常に難しい薬なんだ。
ワクチンにだって問題はある。何度も言うけどインフルエンザウイルスは
「突然変異する確率が高い」。よって大流行する新型ウイルスは、接種したワクチン株とは
全然違うものである可能性だって十分あり得るわけだ。ということは、つまり全然効かないかもってことだ。
まぁ医療側が後手後手に回るのは自明の理だ。完璧に予想できればこの世から
病気なんて根絶できる。

  • じゃぁ結局のところどうしたらいいの?

結局のところ自分の身は自分で守るしかない。そしてその手段は普遍的なものなんだ。
「敵を知り己を知れば百戦して危うからず。」
つまり、まずはインフルエンザに対する正しい知識を身につけること。
これは、このエントリーで一部クリアーしたことになる。
もっと詳しいことは様々なサイトで紹介されている。無駄に不安になったり、
また逆に完全な無知でいることは自ら窮地に立っているようなものだ。
情報は最大の武器である。


そしてそれを踏まえたうえで防御法を遂行する。何も大層な事をする必要は無い。
・うがい手洗いの励行
・外ではマスクを欠かさない。
・適度な運動、十分な栄養の摂取により、ちょっとやそっとの感染ではやられない体を作る。
これらの基本を忠実に行うことが何より最大の防御である。

  • 最後に

インフルエンザは非常に恐ろしい病気であることは間違いない。
スペイン風邪においては全世界で5000万人程が死んだといわれている。
100年前に比べ、ヒトの流れは比べ物にならないほど早い。
新型ウイルスがどこかで出現した瞬間、そのウイルスは世界中にあっという間に広がり、
地球全土をパニックが襲うであろう。パンデミックを防ぐ術はない。
しかし、そうなることを事前にシミュレーションできれば、問題はそこまで深刻にはならない。
何よりも落ち着いた行動、適切な判断が命を救う。
最も恐ろしいものはウイルスそのものではなく、パニックに陥り正常な行動が取れないことである。
小学校で耳にたこができるほど聞かされた真理
「予習はやってきましたか?」
これが生死を分けることになるのだ。