薬オタが非オタの彼女に薬学の世界を軽く紹介するのための10個の薬剤

yun__yun2008-08-04

まあ、どのくらいの数の薬オタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、「オタではまったくないんだが、しかし自分のオタ趣味を肯定的に黙認してくれて、その上で全く知らない薬の世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」ような、ヲタの都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、薬のことを紹介するために見せるべき10の薬剤を選んでみたいのだけれど。
(要は「脱オタクファッションガイド」の正反対版だな。彼女に薬学を布教するのではなく相互のコミュニケーションの入口として)
あくまで「入口」なので、作用機序の理解に過大な負担を伴うマニアックな薬剤は避けたい。
できれば教科書に出てる薬、少なくともそこら辺の薬局に間違いなく置いてる薬剤にとどめたい。
あと、いくら化学的に基礎といっても古びを感じすぎるものは避けたい。
生薬好きが『腹の調子悪い?そんなの甘草でも噛んでろ』と言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。
そういう感じ。
彼女の設定は

* 薬学知識は、いわゆる「下痢になったらとりあえず正露丸」的なものを除けば、薬剤師に従ってただ処方された薬を飲む程度。
* 理系度も低いが、頭はけっこう良い文学部のメガネっ娘。語尾に「かしら〜」がつく

という条件で。

まずは俺的に。出した順番は実質的には意味がない。

ペニシリン抗生物質

まあ、いきなりここかよとも思うけれど、「ペニシリン以前」を濃縮しきっていて、「ペニシリン以後」を決定づけたという点では外せないんだよなあ。耐性菌も続々出てるし。
ただ、ここでオタトーク全開にしてしまうと、彼女との関係が崩れるかも。
この「抗生物質」という幅広い分野について、特に、耐性菌と新規抗生物質との終わりなき戦いについてどれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、それでいて必要最小限の情報を彼女に伝えられるかということは、オタ側の「真のコミュニケーション能力」の試験としてはいいタスクだろうと思う。

タミフルリレンザ(抗インフルエンザ薬)

アレって典型的な「オタクが考える一般人に受け入れられそうな薬剤(そうオタクが思い込んでいるだけ。実際は全然受け入れられない)」そのものという意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを彼女にぶつけて確かめてみるには一番よさそうな素材なんじゃないのかな。「抗インフルエンザ薬としてこの二つは”特効薬”としていいと思うんだけど(てかこの二つしかないんだけど)率直に言ってどう?」って。

スタチンリピトールメバロチン)(抗高脂血症薬)

ある種のSF創薬オタが持ってる万能薬への憧憬*1と、made in Japanの薬剤を*2、というこだわりを彼女に紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えていかにも製薬会社の苦労を表す

・6000種類もの微生物をスクリーニングした結果、スタチンの基となる化合物を発見。
・臨床開発中(長期高濃度投与実験中)副作用が明らかとなり、臨床試験を断念。

といった苦労話をはじめとして、涙なくては語れない三共グループメンバーを世界にちりばめているのが、紹介してみたい理由。

バファリン(解熱鎮痛剤)

たぶんこれを見た彼女は「半分は優しさから出来てるんだよね」と言ってくれるかもしれないが、そこが狙いといえば狙い。
解熱鎮痛剤として紀元前から知られていたこと*3、これがアメリカでは抗血栓薬としても使われているということ、半分は優しさ*4で出来ているから子供にも繁用されるようになって、それが裏目に出て、ライ症候群といった副作用が問題になったこと、なんかを非オタ彼女と話してみたいかな、という妄想的願望。

リアップ育毛剤

「やっぱりハゲの人に対しては一歩引いちゃうよね」という話になったときに*5、そこで選ぶのは「スーパーミリオンヘアー」でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、そもそも「スーパーミリオンヘアー」が薬じゃないから。
高血圧の治療薬を開発しようとしていて、臨床開発の際副作用で増毛が起きちゃって、そこで断腸の思いで粘りに粘って、じゃあ育毛剤で売り出せばいいじゃん、という経緯が、どうしても俺の心をつかんでしまうのは、その「捨てる」ということへの諦めきれなさがいかにもオタ的だなあと思えてしまうから。
(小倉さんのヅラを俺自身は不自然とは思わないし、もう脱ぐことはないだろうとは思うけれど、一方でこれが松本人志松山千春だったらきっちり丸坊主にしてしまう。)
なのに、各所に頭下げて迷惑かけて育毛剤として薬に仕上げてしまう、というあたり、どうしても「自分で創り上げた薬剤を捨てられないオタク」としては、たとえリアップがそういうキャラでなかったとしても、親近感を禁じ得ない。薬剤自体の高評価と合わせて、そんなことを彼女に話してみたい。

インスリン(抗糖尿病薬)

今の若年層でインスリン打ったことのある人はそんなにいないと思うのだけれど*6、だから紹介してみたい。
分子生物学創薬よりも前の段階で、製薬の哲学とか製剤技法とかはこの薬剤で頂点に達していたとも言えて、もともとは大量の豚の膵臓すりつぶして得ていたインスリンが、大腸菌を用いて大量合成できるようになったんだよ、という経緯は、別に俺自身がなんらそこに貢献してなくとも、なんとなく薬好きとしては不思議に誇らしいし、いわゆるペン型インスリン製剤しかインスリンを知らない彼女には見せてあげたいなと思う。

葛根湯(抗炎症、抗風邪薬)

「西洋薬」だけではなく「東洋薬」をオタとして教えたい、というお節介焼きから見せる、ということではなくて。
「人体を総合的に治療したい」的な感覚が医療従事者には共通してあるのかなということを感じていて、だからこそ西洋医学東洋医学の融合以外では真の医療はあり得ないんじゃないかとも思う。
「西洋医療に東洋薬を取り入れよう」という医療従事者の感覚が今日さらに強まっているとするなら、その「オタクの気分」の源は葛根湯にあったんじゃないか、という、そんな理屈はかけらも口にせずに、単純に楽しんでもらえるかどうかを見てみたい。

バイアグラ(勃起不全治療薬)

これはマグナムだよなあ。俺のマグナムが火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。

こういうプラトニックな恋愛だけでは語れない肉体の本質的な欲求があるにもかかわらず体の一部が言うことを聞いてくれないという悩みを、こういうかたちで解決してあげたんだよ、という歴史、それが非オタに受け入れられるか気持ち悪さを誘発するか、というのを見てみたい。

ステロイド(抗炎症薬、副腎皮質ホルモン)

9個まではあっさり決まったんだけど10個目は偽薬(プラセボ)でもいいかな、などと思いつつ、便宜的にステロイドを選んだ。

ペニシリンから始まってステロイドで終わるのもそれなりに収まりはいいだろうし、ステロイドは20世紀の、医学上最高の発見のうちのひとつとされているし、アトピー患者として非常にお世話になったし、紹介する価値はあるのだろうけど、もっと他にいい薬がありそうな気もする。

というわけで、俺のこういう意図にそって、もっといい10個目はこんなのどうよ、というのがあったら教えてください。
「駄目だこの薬剤師は。俺がちゃんとしたリストを作ってやる」というのは大歓迎。
こういう試みそのものに関する意見も聞けたら嬉しい。

参照:アニオタが非オタの彼女にアニメ世界を軽く紹介するための10本
   化学オタが非オタの彼女に化学世界を軽く紹介するのための10物質
   生物オタが非オタの彼女に分子生物学の世界を軽く紹介するのための10タンパク

後記:モルヒネリタリンデパスアリセプトビオフェルミンなどなど、有名どころは入れていきたかったが、流れ上こうなってしまった。   

*1:高脂血症薬として売り出した後、それに加えて抗ガン作用もあると最近研究報告されている。

*2:三共製薬が開発し、世界で大ヒットした。純日本製薬剤が世界で売れることはまれ。

*3:太古の昔、熱が出たら柳の葉を噛んでいた。これは柳の葉に含まれるアセチルサリチル酸が解熱に効いていたのではないかといわれている。

*4:実際は胃潰瘍を防ぐための制酸剤

*5:ハゲの方すみません><

*6:一型糖尿病の方すみません><