twitter with fromdusktildawn and T_Hash No.2

お待たせしました。昨日の記事の続きです。未読の方はまずはこちらをご覧くださいな。
今日もHOTな議論でした。


今日の話題の発端は、昨日もちらっと出たけどid:Hashこの記事。
詳細はリンクを読んでもらうとして、あらすじは下記の通り。

生物学の究極の命題「結局のところ『生命』って何なのよ。」を解明するために一人の男が立ち上がった。
彼の名は"Craig Venter"。人は畏敬の念をこめ彼をこう呼ぶ "Bad Boy of Science"と。


〜中略〜


ゲノムってよく「生命の設計図」とか言われるけどホンマかいな?ゲノムを排除して「皮」だけにした生物Aに、生物Bのゲノムまるまる入れてやると、どうなるのよ。
【見た目はA、中身はB。その名は名探偵コ○ン!】を地で行ったわけである。

  • >なんとその生物は死ぬこともなく、完全にBの性質を獲得したのである。

"Genome Transplantation in Bacteria: Changing One Species to Another"
Science 3 August 2007:Vol.317.No.5838, pp.632 - 638 PMID:17600181

  • >てことは、ゲノムだけ合成してやれば、後はそれを仮親の「皮」に入れてやるだけで「半・人工生物」は作れるわけだ。もちろん、一から核酸、タンパク質を合成することで作成される「完全人工生物」には程遠いけど、そこに到達する確実な一歩を踏み出したと言えるであろう。

彼の冒険はまだまだ続く・・


〜後略〜

結構な脚色ですが、まぁこんな感じです。
始めはこの話の細部を詰めるところから。
1)新しくゲノム DNAを注入した時点では、細胞内分子構造の互換性はどうなってるんだろうか?

  • >始めはやはり生物A(皮側)のタンパク合成酵素やらDNA複製酵素を利用してるのだろう。でも、それにより翻訳されたタンパク質は生物B(ゲノム側)のものだから、徐々に乗っ取られていく形か。今回の実験ではAとBが結構近い種であり、酵素類もそこまで大きく異なってないため、A->Bの切り替えが上手くいったのではないだろうか。AとBのゲノムの相同性が気になるところだ。(論文嫁という話なのだが・・。)


2)この原理を応用すれば、修正されたゲノム DNA を細胞内に注入することで正常な細胞内分子構造を得られる、ということになるのだろうか。

  • >原理的には可能であろう。ただ、治療に使うとなると、患部全ての細胞に対して正常DNAを注入する必要がでてくるから実現はどうだろう。(1)特定の細胞内の既存ゲノムを除去する→(2)特定の臓器の全細胞へ正常DNAを組み込む。うーん超えるべきハードルはかなり多いな。


3)なんだ、「遺伝子治療」なんて大層な名前付けてるだけで羊頭狗肉かよ。遺伝子治療の未来について。

  • >確かに今現在、核酸治療はほとんど行われていない。目的の配列に確実に目的DNAを組み込むという技術的問題、ゲノムを書き換えるという不可逆的な治療によるデメリット、そして倫理的問題、と難問が山積しているからだ。しかし、従来の治療では解決できない難病に対しては、数少ないながら現在核酸治療が施されている。

(例)アデノシンデアミナーゼ欠損症(ADA欠損症)
ADAはリンパ球増殖の際に必須の酵素であり、生まれつきADAを合成できない場合は免疫不全を来す。無治療の場合は多くが乳児期に死亡するという重篤な疾患である。
この疾患に対しては、実際遺伝子治療が行われている。無毒化したHIVに、強力なプロモーターがついた正常ADA遺伝子を組み込む。静脈注射により血流に乗ったHIVは、その外殻の特性により免疫細胞に特異的に侵入する。免疫細胞に取り込まれたHIVは正常ADA遺伝子を効率的にゲノム内に組み込む。組み込まれたADA遺伝子は強力なプロモーターによりタンパク質に翻訳され、結果免疫不全が治るという筋道である。まっ、理想的に事が進めばの話ですけどね・・。
色々不安要素があるのである。(1)ウイルスベクターの特異性の問題。他の細胞に感染する可能性も低くない。(2)ウイルスベクターの形質転換能の問題。HIVのようなレトロウイルスは細胞分裂の時にしかDNAを組み込むことが出来ない。しかし成熟した免疫細胞などはほとんど分裂しない。よって感染する=DNAが組み変わるわけではないのである。(3)DNAが組み変わる部位を選択できない。よって重要な遺伝子内にADA遺伝子が組み込まれることにより、その遺伝子を潰してしまう可能性がある。などなど・・。
とはいえ、難病患者にとっては夢のような治療法であることは間違いない。ハンチントン舞踏病などの単一遺伝子病には非常に有効であると考えられる。(1)−(3)の問題点も解決が不可能なわけではない。これからの医療の発展に期待。

(例)ジンクフィンガーヌクレアーゼによる遺伝子編集

[http://www.nature.com/nbt/journal/v25/n7/full/nbt1319.html:title=
"An improved zinc-finger nuclease architecture for highly specific genome editing."]
Nature Biotechnology 25, 778 - 785 (2007) PMID:17603475
親切なid:Hashがコメントしてくれると思うよ(o^冖^o)(o^冖^o)

亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)によるゲノム編集では、標的遺伝子に組み換えを生ずる二重鎖切断端を与えると遺伝子操作率が高まる(> 10%)。その切断事象を誘導する特別に設計された2種類のZFNは、DNA結合時にヘテロ二量体化して触媒活性を示すヌクレアーゼ複合体を形成する。一方、従来のZFN構造を用いると、切断能力をもつホモ二量体も生じ、非特異的切断によって安全性または有効性が損なわれる場合がある。本研究ではこの問題を回避する改良型ZFN構造を開発した。構造に基づく設計により、ヘテロ二量体を形成した場合のみDNAを効率的に切断する変異ZFNを2種類作製した。このZFNは未処理の内在遺伝子座に対して親構造に匹敵するほど効率的に作用するが、ホモ二量体の機能は40分の1未満に低下し、ゲノム全体の切断のレベルがはるかに低い。この構造は、ZFNの遺伝子操作試薬としての特異性を向上させる普遍的な手段をもたらすものである。

・・論文読んでおきます。簡単に説明すると「ジンクフィンガーで遺伝子編集の件は、ジンクフィンガーとヌクレアーゼをキメラにしておく。で、Zn-finger認識配列に結合させ、結合した部分のDNAをヌクレアーゼ部分がカットする」という流れらしい。上の例とは全く違う観点からの遺伝子治療法で非常に面白い。selectivityがどこまであるのかが気になるところ。
http://wiredvision.jp/archives/200507/2005070706.html

4)老化細胞と若い細胞があってゲノム入れ替えた場合どっちが長生きする??

  • >んー難しい問題ですね。でもこの話の流れから行くとゲノムが若い方が長生きしそうですね。

「赤ちゃんのときのゲノムを『マスターゲノム』として保存しておいて、老化した時このマスターゲノムを参照して遺伝子を若返らせて、結果細胞の若返りを行う。」というのは非常に興味深いアイデアかな、と思う。一旦この技術が可能になると不老不死も夢じゃなくなるなぁ。


最後に僕がフォローできた中で興味深かったpostを一つ。(ちょっと改変)
@REVIさん「 『老化』の原因はいろいろ言われているが、『若い細胞に若い細胞(核なし)を融合->細胞は分裂可能』『若い細胞に年寄り細胞(核なし)を融合->細胞は分裂不可能』という実験より、ゲノム交換(修復)のみで若返りは難しそう。」
ゲノム以外の何かの要因(老廃物の蓄積etc..)の影響も大きいということか。しかし個々の要因を分解して、各個撃破すれば最終的には若返りも理論的には可能か。


追記:id:REVさんのブログを発掘したのでトラックバックしてみる。


僕らの議論がきっかけとなって僕が追えないような遠いtimeline上で個々に面白い議論が派生しているかもと妄想するとワクワクしてくる。少しだけ世界に影響を与えたのかな、と思ったりする。