今日の雑学〜iPS細胞を通して学ぶ新規遺伝子命名法〜

6/8 追記あり
どんな分野においても、世界で最も早く事象を見つけた人には命名権が与えられる。
天体の分野なら星の名前を、昆虫学者なら昆虫の名前を。(もちろん学術名とは別に。)
生物学者もその例に漏れない。ある機能未知遺伝子の働きを世界で始めて解明した人には、
遺伝子名の命名権を与えられる。*1


今日は一躍時の人となった山中伸弥教授が、iPS細胞のキー遺伝子を発見し、
"Nanog"という名前を付けるまでのお話。


山中グループはまず、ES細胞とその他の分化細胞との違いを見極めるため、
ES細胞特異的に発現している遺伝子のライブラリーを作成した。
ここで用いた方法は「サブストラクション法」というものである。
これは、ES細胞で発現している遺伝子から、分化細胞にも発現している遺伝子を差し引いて、
残っている遺伝子がES細胞特異的である、という考え方をもとにしている。
この方法を用いる事で、山中グループはまだ機能が未知である遺伝子を20個程発見し、
それらをECAT(ES cell assocciated transcript:ES細胞関連転写因子)と、とりあえず名付けた。


さて、このECATの機能解析を続けていくうちに、特にECAT4の働きが重要である事が分かり、論文を投稿する段階となり、ECAT4に正式な名前をつける時が来た。
共同研究者との話し合いの結果、PDF(Pluripotency determining factor:分化多能性決定因子)という名前に決め、cell誌に投稿した。
ご存知の読者も多いと思うが、論文誌に掲載されるためにはレフェリーによる査読を通過する必要があるのだが、4名いたレフェリー全員から、「その名前はやりすぎだ。名前の変更を。」というお返事が返ってきた。
PDF(Portable Document Format)にかぶせてきたのがあからさますぎたのだろう。


結局、ケルト神話にでてくる常若の国(Tir Na Nog)から"Nanog"と名付け再投稿し、この名前に決まった。
神話から名付けるとは何とも神秘的な話である。


今日の教訓:ネタに走りすぎるのは(・A・)イクナイ


追記:今日ハテナという生物がいることを知った。進化生物から見ても非常に面白い生物。

*1:性欲を司るsatoriという遺伝子もある。この話も面白い